採血に協力するように個体を訓練する(写真72-78)

写真72

写真73

写真74

"アカゲザルのオトナオスは攻撃的で、取り扱いが大変危険である"、だから"薬品を用いたり、個体を物理的に拘束するなどの手続きを実験操作の中に加えることは、いたしかたのないことである"という従来の考えに、実際場面で得られた知見は疑問を投げかける(Wickings & Nieschlag, 1980)。

写真72写真73に写っているのは、簡単な正の強化テクニックにより、ホームケージ内で自主的に採血に協力するように訓練されてきたアカゲザルのオトナオスである(Reinhardt, 1991d, 1996)。

この手続きは、サルを取り扱う人間にとって絶対に安全な方法である。なぜなら、この手続きをとる限り、オスのアカゲザルが攻撃的に振る舞って、自分を守る必要などないからである。協力した後には、いつもお気に入りの餌が報酬として与えられる(写真74)。







写真75は別のオスを撮影したものである。ホームケージ内での静脈穿刺に協力するよう個体を訓練することは、集められたデータの妥当性を高めることにつながる。こういった訓練により、対象個体が不必要に興奮したり、それに伴って基礎生理状態が変化してしまうのを避けられるからである。採血方法を改良することで、1人の人間でも実験用のサルを簡単に扱うことができるようになる。しかし、従来のテクニックは、拘束された動物を取り扱うのに通常2、3人の人手を要した。(写真 68, 69参照; Reinhardt, 1996)。

写真75

一度訓練されたアカゲサルは、アカゲサルを取り扱った経験のある人間であれば誰にでも協力するようになる(Reinhardt, 1991d, 1992a)。

"正の強化テクニックを用いて、採血の際にサルが手足を自主的に差し出すように訓練することは可能であるが、その訓練には相当な長さの時間と献身的なスタッフが必要である"と今まで言われてきた(Hrapkiewicz et al., 1998)。訓練を行うための安全な作業環境をつくり出すためには、動物と人間の間に信頼関係をきずき、それを育てていくための献身的なスタッフが必要であることは事実である。しかしながら、必ずしも実際に個体を訓練するのにかかる時間が"相当な長さ"に及ぶとは限らない。

ペア飼育のアカゲザルのオトナ10組と、個別ケージ飼育のアカゲザルのオトナ5頭を調べたところ、平均すると3分間の訓練セッションを13回繰り返すことで、ホームケージ内での採血に抵抗せず、自発的に足を差し出すように個体を訓練できることがわかった(Reinhardt, 1991d)。1頭のオスを訓練するのにかかった延べ時間には16-74分の幅があった。平均所要時間は40分(ペア飼育の個体で39分、個別ケージ飼育の個体で44分)であった。

Reinhardt(1991d)の報告は、訓練の段階的な手続きについてわかりやすく説明している。


写真76

写真77
実のところ、訓練に"相当な時間"を要するのは、オトナではなく、むしろコドモである。人間に対してもともと持っている不安感を克服することは、コドモにとって困難なことである。だから彼らは、採血に協力することに頑強に抵抗するのである(Reinhardt, 1992d)。






                         写真78

ヒト以外の霊長類と人間は共通祖先をもつ。それゆえ心ある人間なら誰にとっても、バイオメディカル研究の実験動物として使用されているヒト以外の霊長類に、よりくらしやすい環境を与えてやるのは容易いことである。

このことはとりわけ獣医に当てはまる。つまり獣医は、"「動物の福祉に対して責任をもつことを約束すると同時に、その科学的な知識や技術を医学領域の知識の進歩に役立てることを誓う」ということである。この誓いを立てた賢明な人物は、動物を苦痛から開放することと科学の進歩が、相対立するものではないと考えた。実際、両者の間に利害の対立はないのである"(Schwindaman, 1991)。


給餌条件のエンリッチメント (写真 79-91)

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