前書き

  はじめてサルを扱う研究施設を訪れた時は、通常の精神を持った人間としてだけではなく、研究データに影響するかもしれない目的外の要因は厳密にコントロールしなければならないと訓練されてきた研究者として、私にとって強烈な経験となりました。多くのサルは、何もない小さな個別ケージに殺風景な壁を見つめる以外にすることもなく閉じ込められ、生死もわからない実験に使われる期日を待っていました。窓のない部屋で、効率よく押し込めるため、ケージはすべて2段重ねにされていました。次の詩は、名のある霊長類研究施設の飼育技術員が書いたものですが、私のこのときの印象をうまく言葉に表現してくれています。

Hope Dashed

Walking, dazed
past cage and cage and cage
each contained an emotion
fear, depression and rage

each unique
one aggressive, the next is meek
a thousand lives locked away
with futures bleak

in stainless steel
a world surreal
no friend to touch
or sun to feel

entire lives kept complete
in 4.3 square feet
from birth through life
till last heartbeat.

希望をうち砕かれ

ぼんやりと歩き続け
一つ、一つ、そしてまた一つとケージの前を通り過ぎた
それぞれに感情が込められている
恐怖や憂鬱、そして怒りの感情

それぞれが個性を持って
あるものは攻撃的で、そしてあるものは柔和な性格で
千の命が錠を下ろしてしまい込まれている
その未来はもの寂しい

ステンレス製の
現実とは切り離されたシュールな世界
触れる友もなく
感じる日の光もない世界

4.3平方フィートの世界の中で
完結する生のすべて
誕生から一生の間
心臓の最後の拍動まで

(1フィート=30.5センチ)

   こうした状況を強制収容所の囚人になぞらえることは、本当に手間のかかることでしょうか。ほどなくして、私はサルの飼育・管理の条件を改善するための臨床獣医としてまた行動学研究者として、そうした研究室で仕事をする機会を得ました。私はその時次のような優先順位で仕事を進めることにしました。1)社会的な接触や関わりが活発に持てるように、少なくとも2頭で飼育する。2)実験処置をしているあいだ我慢を強いるのではなく、協力してくれるよう動物を訓練する。3)飼育にたずさわる人達に、サルを通し番号のついた研究道具ではなく感覚を持った1個の動物として見ることを奨励する。4)サルが"高さ"を利用できるケージを考える。5)サルが1日のいくらかの時間を餌の入手に費やすことができるようにする。私は、慣習の隋性を幾分でも打破し、それまでの硬直した考え方と相反し否定するような新たな飼育・管理法を導入することを認めてくれた、研究室に感謝します。
  

  今回集めた写真は、私が関心を持ってきたマカクを飼育し取扱うこれまでの方法と、私がうまく実践することができたそれに代わる洗練された方法についてお伝えするものです。サルの飼育にたずさわる人、研究者、獣医、施設管理者が、自らの義務としてサルへの思いやりを持ち、そうした気持ちを行動に移す勇気を持っていただけたらと思います。そうすることが、サルを良く扱うことにも、彼ら自身を幸せにすることにもなるのです。

ヴィクター・ラインハルト
2000年9月7日、シャスタ山にて

個別ケージ飼育とその問題点(写真1-10)

目次